NSGA-III#

Layer 2: Compose

NSGA-IIIは主に多数目的最適化を対象としますが、3目的でも参照方向による挙動を観察できます。混雑距離による多様性維持を、あらかじめ配置した参照点に対するニッチ保存操作へ置き換え、目的数が増えても解集合の分布を維持します。

概要#

目的数が4つ以上に増えると、NSGA-IIの混雑度距離は多様性維持の役割を十分に果たせなくなります。 ランダムに生成した個体群のうち非優越な個体の割合は目的数の増加とともに指数的に増えるため、優越関係による絞り込みだけでは次世代個体群を埋められなくなり、混雑度距離が担う多様性維持の比重が相対的に大きくなるためです。

NSGA-IIIは、この混雑度距離を、目的空間上にあらかじめ配置した参照点へのニッチ保存操作に置き換えます。 各世代で、個体群全体の理想点と極端点から超平面の切片を求めて目的関数を正規化し、各個体を最も近い参照点への垂直距離で対応付けます。 まだ完全には受理できていない最後のフロントでは、割り当て済みの個体数(ニッチカウント)が少ない参照点を優先し、そこに対応付けられた個体のうち垂直距離が最小の個体から順に選ぶことで、参照点ごとにほぼ均等な数の解を残します。

NSGA-IIIは、このニッチ保存操作によってすでに多様性を確保しているため、NSGA-IIのような優越関係に基づく親選択を用いません。 次世代個体群から親をランダムに選び、交叉と突然変異を適用して子個体群を生成します。

参照点の一様配置には、Das and Dennisが提案した単体格子法を用います(Das & Dennis, 1998)。

出典は[7]。具体的な手順は次の擬似コードに示します。

擬似コード#

アルゴリズム 7 (NSGA-III)

Inputs 目的関数群、参照点集合 \(Z^r\)(構造化点 \(Z^s\) またはユーザー指定点 \(Z^a\))、個体数 \(N\)、初期個体群 \(P_0\) Output 最終世代の個体群 \(P_{t+1}\)

\(t=0\) とし、ランダム生成した \(P_0\) から交叉と突然変異により子個体群 \(Q_0\) を生成する 親子を結合した個体群 \(R_t = P_t \cup Q_t\)(サイズ \(2N\))を作る \(R_t\) を非優越ソートし、フロント列 \(\mathcal{F} = (\mathcal{F}_1, \mathcal{F}_2, \ldots)\) を得る \(S_t = \emptyset\) とし、\(|S_t| \geq N\) となるまでフロントを \(\mathcal{F}_1\) から順に \(S_t\) へ加える。最後に加えたフロントを \(\mathcal{F}_l\)、\(P_{t+1} = \bigcup_{i=1}^{l-1}\mathcal{F}_i\)、\(K = N - |P_{t+1}|\) とする(\(|S_t|=N\) ならそのまま \(P_{t+1}=S_t\) とし8へ進む) \(S_t\) の理想点と極端点から超平面の切片を求めて目的関数を正規化し、\(Z^r\) を正規化後の目的空間に配置する \(S_t\) の各個体を、原点から \(Z^r\) の各点を通る参照線への垂直距離が最小の点に対応付ける \(\mathcal{F}_1, \ldots, \mathcal{F}_{l-1}\) 上の対応付けから各参照点のニッチカウント \(\rho_j\) を求め、ニッチカウントが最小の参照点を優先しながら \(\mathcal{F}_l\) から \(K\) 個体を選んで \(P_{t+1}\) に加える \(P_{t+1}\) からランダムに親を選び、交叉と突然変異を適用して \(Q_{t+1}\) を生成する。\(t=t+1\) として2へ戻り、終了条件に達するまで繰り返す

フローチャート#

        flowchart TD
    INIT["初期化器<br/>初期個体群P0を生成<br/>(L1)"] --> GEN
    subgraph GEN["1世代 (DirectStrategy.step)"]
        direction TB
        ASK["GA.ask()<br/>親をランダムに選択→<br/>SBX交叉→<br/>多項式突然変異でQtを生成<br/>(L1, L8)"] --> EVAL["真の評価<br/>(サロゲートなし)"]
        EVAL --> COMB["GA.tell()<br/>Rt = Pt ∪ Qtを結合<br/>(L2)"]
        COMB --> SORT["NSGA3Comparator.sort_population()<br/>非劣ソート→適応的正規化→<br/>参照点への対応付け→<br/>ニッチ保存選択<br/>(L3-7)"]
        SORT --> TRUNC["TruncationSelection<br/>上位N個体をPt+1とする<br/>(L4-7)"]
    end
    GEN --> TERM{"終了条件<br/>に達したか?"}
    TERM -- "未達 (L8)" --> GEN
    TERM -- "到達" --> RESULT(["最終世代の個体群"])
    

saealibでの構成#

役割

saealibでの実装

対応ステップ

探索アルゴリズム本体

GA(ask()で交叉と突然変異、tell()で \(R_t=P_t\cup Q_t\) の結合と生存選択を実行)

「L1-2, L8」

親選択

TournamentSelection(tournament_size=1)(トーナメントサイズ1では比較処理自体が実行されないため、論文が述べる「\(P_{t+1}\)からランダムに親を選ぶ」動作に対応する)

「L1, L8」

Crossover

CrossoverSBX(prob=1.0, eta=30.0)

「L1, L8」

Mutation

MutationPolynomial(eta=20.0)

「L1, L8」

参照点生成

uniform_weight_vectors(n_obj, n_divisions)(Das-Dennis法の単体格子で \(Z^r\) の初期値 \(Z^s\) を生成)

手順 L5

非優越ソート+正規化+対応付け+ニッチ保存

NSGA3Comparator(sort_populationが内部で_normalize_objectives/_associate_to_reference_points/_niche_count_selectを順に呼ぶ)

「L3-7」

生存選択

TruncationSelection()(comparator.sort_populationの順に上位 \(N\) 個体を残す)

「L4-7」

評価戦略

DirectStrategy(サロゲートを介さず、GA.ask()が生成した候補を全て真の目的関数で評価する)

手順 L2

from saealib import GA, NSGA3Comparator, Optimizer, uniform_weight_vectors
from saealib.benchmarks import dtlz2
from saealib.operators.crossover import CrossoverSBX
from saealib.operators.mutation import MutationPolynomial
from saealib.operators.selection import TournamentSelection, TruncationSelection
from saealib.strategies import DirectStrategy
from saealib.termination import Termination, max_fe


problem = dtlz2(n_obj=3)
reference_points = uniform_weight_vectors(n_obj=3, n_divisions=8)
problem.comparator = NSGA3Comparator(reference_points)

algorithm = GA(
    CrossoverSBX(prob=1.0, eta=30.0),
    MutationPolynomial(eta=20.0),
    TournamentSelection(tournament_size=1),
    TruncationSelection(),
)

opt = (
    Optimizer(problem)
    .set_algorithm(algorithm)
    .set_strategy(DirectStrategy())
    .set_termination(Termination(max_fe(3000)))
)
ctx = opt.run()
pareto_f = ctx.pareto_archive.get_array("f")

problem.comparator = NSGA3Comparator(reference_points)の行は省略できません。 NSGA-IIではNSGA2Comparatorがn_obj > 1のときの既定値なので同じ行を省略できましたが、NSGA-IIIではSPEA2と同様に明示的な代入が必要になります。

2目的のZDTベンチマークではなく3目的のDTLZ2を使うのは、NSGA-IIIが多数目的最適化を主対象としつつ、3目的でも参照方向によるニッチ保持の挙動を観察できるためです。

文献との差分#

原法のNSGA-IIIは親をランダムに選びますが、saealibでは比較を行わないTournamentSelection(tournament_size=1)で表現します。tournament_sizeを2以上にすると、原法が指定していない支配関係による選択圧が加わります。例におけるSBX、多項式突然変異、TruncationSelectionの組み合わせはsaealibの構成上の選択です。原法は個体群サイズと参照点数の関係を推奨しますが、saealibの既定初期化では個体群サイズはdimに依存し、参照点数とは連動しません。

パラメータと変種#

計算量#

実装された非劣ソート器の計算量は\(O(N\log^{M-2}N)\)です(\(M\)は目的数、\(N\)は個体群サイズ)。これはNSGA-IIの\(O(MN^2)\)とは漸近的に異なりますが、この上界はソート器だけに適用され、NSGA-III全体には適用されません。正規化、対応付け、ニッチ保存を組み合わせた世代ごとの最悪計算量は、\(O(N^2\log^{M-2}N)\)と\(O(N^2 M)\)の大きい方です。[7]

\(\eta_c\)(SBX分布指数)と交叉確率\(p_c\):論文は、NSGA-IIIで\(p_c=1\)(CrossoverSBX(prob=1.0))、\(\eta_c=30\)(CrossoverSBX(eta=30.0))を使ったと報告しています。 NSGA-IIの既定値(\(p_c=0.9\)、\(\eta_c=20\))より交叉確率と分布指数のいずれも大きく、親に近い子個体をより高い確率で生成する設定になっています[7]。

支配述語の差し替え:NSGA3Comparator(reference_points, dominator=...)では、既定のParetoDominator以外のDominatorを注入できます。非劣ソート自体の結果が変わるため、フロント分割とニッチ保存の対象となる個体群もこの支配述語に依存します。

関連#